大阪高等裁判所 平成10年(ネ)518号 判決 1998年7月17日
大阪市中央区瓦町一丁目四番一六号
控訴人(原告)
アサヒ軽金属工業株式会社
右代表者代表取締役
和倉義治
右訴訟代理人弁護士
谷池洋
同
木内道祥
東京都新宿区高田馬場一丁目二九番八号
被控訴人(被告)
株式会社日本文化センター
右代表者代表取締役
品川博美
右訴訟代理人弁護士
永島賢也
同
米川耕一
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、原判決別紙一の商品取扱説明書を製作、頒布してはならない。
三 被控訴人は、控訴人に対し、金一〇万円を支払え。
四 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
(以下、控訴人を「原告」・被控訴人を「被告」と略称し、その余の略称は原判決の例による。)
本件の事案の概要は、次に付加する他は、原判決の「第二 事案の概要」「第三 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原告の主張
1 原告説明書の表題にある「フシギな、不思議な料理ブック 水なし油なし」との表現(原判決別紙三「比較一覧表」の右欄摘示1の部分)は、言葉の選択や配列に作者独自の精神活動が存在しているのであって、その意味では俳句と同様に作者の精神活動の所産である。
2 一定の事象を認識し、それを作者が自己の感性・経験・知識等に依拠し自己固有の精神作業に基いて言語等を使用して外部的に表現したものでおるならば、それは作者独自の思想表現であって著作物といえるのである。
同一覧表の右欄摘示2ないし11の表現も、「具体的手順」を「箇条書き的」に整理し、それにふさわしい言葉を選択して「簡潔」に記載した点に、作者独自の精神活動が存在しているのである。12・13の表現も同様である。
3 原告説明書の内容構成(原判決七頁三行目から同八頁三行目まで参照)に比較して、被告説明書の内容構成は、「かぼちや」の料理方法を記載していることを除けば、その表現のみでなく項目までも原告説明書と同一である。被告説明書が原告説明書を模倣・盗用して作成されたことは明白である。こうした説明書がその存在を許されるとするのは到底健全な社会感情・法感情に合致するものではない。
二 被告の主張
1 一般に単なる題号ないしタイトルについては創作性は認められず著作物とはいえない。原告説明書の表題にある「フシギな、不思議な料理ブック 水なし 油なし」との表現は端的にキャッチフレーズの類を表題としたもので、商品の客観的性能を記述ないし説明したものでもあって、創作性は認められない。
2 前記2ないし11の表現も、家庭料理の手順ないし要領を事実のとおり簡潔に表現したもので、創作性といえるだけの精神活動は存在しない。12・13の表現も同様である。
第三 当裁判所の判断
当裁判所も原告の本件請求は棄却すべきものと認定判断するが、その理由は次に付加する他は原判決の「第四 争点1(一)に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原告説明書の表題にある「フシギな、不思議な料理ブック 水なし 油なし」との表現のうち、「フシギな、不思議な料理ブッグ」というのは書物の表題にすぎず、「水なし 油なし」との表現をも含めた全体を視ても、商品(本件ではフライパン)ないしは調理方法の特性を簡潔に表現するための見出しとして使用されているもので、いわゆるキヤッチフレーズとしての言葉の羅列以上に出るものではなく、そこに著作物として保護すべき知的文化的所産というに足りる創作性があるとは到底いうことができない。
二 原告説明書のうち表題部を除いた各料理方法の具体的手順等を説明した部分(前記2ないし13の表現)は、調理器具(フライパン)の使用方法を各素材に即して実用的に分説したにすぎず、そこに知的な精神活動の発現としての創作性があるとは認めることはできない。
その内容が「箇条書き的」に整理され言葉を選択して「簡潔」に表現されているとしても、それはあくまで客観的な調理方法の説明にとどまるものであって、これを超えた思想・感情の創作的表現があるとは認められない。
三 右のとおり、原告説明書が著作物として認められない以上、被告説明書の内容構成が原告説明書のそれを模倣しているものであったとしても、著作権に基づく差止請求及び著作権侵害に基づく損害賠償請求は理由がないという他ない。
第四 以上の次第で、控訴人の本件請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないので棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一〇年五月二〇日)
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)